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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)118号 判決 1974年10月30日

原告 太陽石油株式会社

被告 麹町税務署長

主文

一  本件訴えのうち、被告が昭和四三年一二月二八日付でした原告の昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の法人税更正のうち、所得金額四一、〇八三、六九〇円をこえる部分の取消しを求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四三年五月二一日付でした原告の昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度の法人税更正のうち、所得金額六四八、七八四、〇一一円をこえる部分を取り消す。

2  被告が昭和四三年一二月二七日付でした原告の昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度の法人税更正のうち、所得金額七五五、二三九、五七八円をこえる部分を取り消す。

3  被告が昭和四三年一二月二八日付でした原告の昭和四一年四月一日から昭和二年三月三一日までの事業年度の法人税更正のうち、所得金額四一、〇八三、六九〇円をこえる部分を取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

1  主文と同旨の判決

2  請求の趣旨3の請求の本案につき、請求棄却の判決

第二原告の請求原因

一  原告は、石油の精製及び販売を主たる業とする商事会社で、法人税法上の同族会社であるが、その昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度(以下「昭和三九年度」という。)、昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度(以下「昭和四〇年度」という。)及び昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度(以下「昭和四一年度」という。)の各法人税について、原告のした確定申告(昭和三九年度については、修正申告)、これに対する被告の各更正(以下「本件各更正」という。)及び昭和四〇年度について国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表(一)記載のとおりである。

二  しかし、被告がした本件各更正は、昭和三九年度については所得金額六四八、七八四、〇一一円をこえる部分、昭和四〇年度については所得金額七五五、二三九、五七八円をこえる部分、昭和四一年度については所得金額四一、〇八三、六九〇円をこえる部分は、原告の所得を過大に認定したもので違法であるから、その取消しを求める。

第三被告の答弁及び主張

一  本案前の主張

昭和四一年度の本件更正は、原告の申告額による納付税額を減少させる更正であつて、原告の権利又は法律上の利益を侵害するものではなく、原告にとり利益な処分である。したがつて、本訴のうち昭和四一年度の更正の取消しを求める部分は、行政事件訴訟法第九条に該当しない不適法な訴えである。

二  請求原因に対する認否

原告の請求原因一の事実は認める。同二の主張は争う。

三  本件各更正の適法性

(一)  本件各更正において、原告の申告所得金額を修正した項目は、別表(二)から(四)までに記載のとおりである。

(二)  別表(二)の昭和三九年度課税標準計算の内訳(加算)のうち<4>寄附金は、当該年度において原告が愛媛県越智郡菊間町に対して採納の手続を経てした寄附金である。同<5>営業雑費、<6>製造雑費、別表(三)の昭和四〇年度課税標準計算の内訳(加算)のうち<6>営業雑費(土地)及び別表(四)の昭和四一年度課税標準計算の内訳(加算)のうち<15>営業雑費(土地)は、いずれも、菊間町原部落住民の集団立退きに伴い支払つた立退補償金である(以下、以上の支出金を合わせて「本件支出金」という。)。

(三)  本件支出金は、以下に述べる理由により、いずれも、原告が原告の菊間製油所の保安空地及び設備拡充用地等の土地を取得するために支出したものであつて、取得した土地の取得価額(所有権のほか借地権等の取得価額を含む。以下同じ。)を構成するものであるから、その損金算入を否認したものであり、本件各更正は適法されたものである。すなわち、

1 菊間町大字種に所在する原告の菊間製油所においては、消防法に基づいて昭和三三年に制定された菊間町条例(昭和三四年以降は「危険物の規制に関する政令(昭和三四年政令第三〇六号)」)を無視し、条例又は政令に規定する保安空地を保有することなく、昭和三三年から同三六年までの間原油貯蔵のための大型屋外貯油タンク一〇基を同町字原の部落の住宅に極めて接近して設置し、無許可のまま操業を続け、昭和三九年五月一一日には火災事故を発生させたこともあつて、原告は、愛媛県及び菊間町当局から保安空地設定の強い要請を受ける一方、原部落住民からは、貯油タンク等の撤去を強く要求されるに至つていた。しかしながら、貯油タンクを撤去したのでは、今後の操業に差し支えること、撤去費用は新規建設とほぼ同額の費用を要するため、経済的に困難な状況にあつた。

2 一方原告は、当時の経営状態から貯油タンクの増設等菊間製油所の設備の拡充が緊要であつたことなどから、そのための土地の取得が必要であつた。すなわち、原告の石油精製能力の著しい増大に伴い、原告は、原油輸送手段をも拡充したが、必然的にそれに比例した貯油能力を必要としたため、貯油タンクの増設の必要性に迫られていた。そこで原告は、原部落側に対し、部落を原告の費用で移転することとし、移転先用地は、原告が取得して部落民に無償で譲渡する旨の申入れを行い、部落跡地は、貯油タンク建設のため原告が買い上げるという条件で解決を図つた。

3 原部落住民の立退き等については、菊間町が原告と同部落住民の間に入り斡旋を行つたのであるが、同町が買収造成した部落住民の立退先用の土地を一たん原告に払下げると二重の事務処理となるため、同町から同部落民に直接無償で払い下げることとし、原部落住民は同所に集団移転し、原告が右土地の買収造成費を同町に寄附することとしたものである。

4 次いで原告は、事業の拡大に伴う新たな貯油タンク増設と前述の保安空地確保のため、原部落の立退跡地四、六四四坪(以下「本件土地」という。)を代金八、九四八、五六九円で買い取り、かねて計画中の貯油タンクを建設し、さらに、別表(五)記載のとおり、菊間製油所設備拡張のため本件土地周辺の種地区の土地をも取得したのである。

(四)  以上の事実によれば、本件支出金は、いずれも、原告が原告の菊間製油所の保安空地及び設備拡充用地を取得するために支出したものとみるべきであつて、取得した土地の取得価額を構成する。すなわち、固定資産の取得価額を構成する金額の範囲については、固定資産のうち減価償却資産の取得価額に関する規定(旧法人税法施行規則(昭和二二年勅令第一一一号。以下「旧規則」という。)第二一条の七又は法人税法施行令(以下「施行令」という。)第五四条)が非償却資産の取得価額についても準用されるから、本件支出金は、旧規則第二一条の七第一項の「その他これをその用途に供するために直接要した費用」又は施行令第五四条第一項第一号の「その他当該資産の購入のために要した費用」に当たり、本件土地の取得価額を構成するというべきである。

第四被告の主張に対する原告の反論

一  本訴のうち、昭和四一年度の更正の取消しを求める部分についても、原告は、訴えの利益を有する。すなわち、法人税の課税所得金額は、期間損益により計算するもので、前期以前の各事業年度にかかる所得計算の否認の結果、当期に影響する事項は、課税庁が当然に増減計算を行い、その残額を基準として不利益かどうかを判断すべきところ、別表(四)昭和四一年度課税標準計算の内訳(減算)<1>及び<4>から<10>までの金額は、すでに前期以前の事業年度において否認されたものであるから、減額処分には当たらない。

また、右更正は、所得の増額を内容とする処分と所得の減額を内容とする処分が同一事業年度内において競合した結果、所得の減額を内容とする処分が所得の増額を内容とする処分を超過したため、結果的に超過額を減額されたに過ぎない。原告は、所得の増額を内容とする処分につきその取消しを求めるのであるから、訴えの利益がある。

二(一)  被告主張の第三の三(一)の事業は認める。

(二)  第三の三(二)の事実は、昭和三九年度課税標準計算の内訳<6>製造雑費のうち一〇万円について争い、その余は認める。右一〇万円について、はじめ被告の主張事実を認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから、その自白を撤回し、否認する。右金員は菊間製油所の道路の補修のために支出した費用である。

(三)  第三の三(三)の事実のうち、原告が原部落住宅に近接して大型貯油タンクを設置したこと、県当局より保安空地設定の要請があつたこと、菊間町が原告と同部落住民の間に入り立退きを斡旋したこと、寄附金は同部落住民の立退先用地の買収、造成費に充てる目的であつたこと、原告が本件土地を被告主張の代金で取得したこと、原告が別表(五)記載のとおり種地区の土地を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  第三の三(四)の主張は争う。

三  本件支出金は、本件土地の取得とは全く関係がないから、本件土地の取得価額を構成するものとして損金算入を否認することは違法である。

(一)  原部落住民の移転は、単なる消防法による保安空地の保有を目的とするものではなく、原部落住民の生命、身体、財産を保護し、その福祉を増進するために、菊間町が主導して行つた公害防止事業である。原告は、その公害防止事業に必要とする費用を負担したにすぎないから、その支出は、本件土地の取得とは全く関係がない。被告のいうように保安空地のためであるならば、原告が所有権の取得、地上権の設定をすることは不要であつて、単に空地とすれば足り、また原部落全体を移転させることも不必要である。原部落住民が移転した後の土地は、耕作をする者がなかつたので、原告が売渡しを希望した部落民から買い受けたにすぎない。しかも、原部落の移転跡地全部を買い取つたものでもない。原告が本件土地を製油所敷地として利用したことは、事後の土地利用にすぎない。

(二)  被告の主張するように本件支出金を本件土地の取得価額に算入するとするならば、坪当たりの単価は二四、〇〇〇円以上となり、本件土地の時価坪当たり二、〇〇〇円と比較し、とうてい社会通念上是認できない非常識な高額なものとなる。この点からも被告の主張は失当である。

(三)  原部落の移転問題は、前述のとおり、菊間町が主体となつて実施した公害防止事業であり、本件支出金は、その後制定された公害防止事業費事業者負担法にいう事業者負担金と同視すべきものである。それは資産性の全くない支出であり、また繰延資産にも該当しないから、右負担金は、租税特別措置法第五二条の二第一項により支出時の一時の損金に算入されるべきものである。そして右支出の性質は、同法制定の有無によつて左右されるものではなく、また、右支出金は公害問題の解決のために支出した費用で純資産の減少となる支出であるから、全額損金に算入されるべきである。

(四)  のみならず、別表(二)の昭和三九年度課税標準計算の内訳のうち<4>寄附金は、市町村に対するものであるから、法人税法第三七条第三項第一号の規定により損金に算入されるべきものである。

第五原告の主張に対する被告の反論

一  第四の二(二)の自白の撤回には異議がある。

二  消防法上保安空地については、その所有権を取得する必要はないが、その空地に対しては自己の管理権限を保有することが要求される。したがつて、自己の管理権限を保有するために通常地上権等の権利の設定が必要であり、その権利の取得に要する費用は、原告が取得する地上権等の取得価額に算入されるべきものである。

三  固定資産の取得価額とは、取得に要した費用、すなわち、固定資産に対する資金の投下額を意味する。一般に、住民が現に居住する空地を買い取る場合は、土地代金の外、土地の上に存する建物等の損失補償、移転補償等の支払いが必要である。これらの費用は、当該土地購入のために要した費用の額として、すべて土地の取得価額を構成する(旧規則第二一条の七第一項又は施行令第五四条第一項第一号)。本件支出金は、本件土地の取得のために必要不可欠な支出であるから、本件土地の取得価額に算入されるべきことは当然である。

四  本件支出金が仮に公害防止事業費事業者負担法にいう事業者負担金と同視しうるものとしても、右負担金についての租税特別措置法第五二条の二の規定は、昭和四六年四月一日以降開始する事業年度について適用されるのであるから、それ以前の事業年度である本件については、同条の規定は適用されず、したがつて、本件支出金を支出時の一時の損金に算入することはできない。また原告は、本件支出金は公害問題を解決するために支出した費用であるから、支出時の損金に算入されるべきであると主張するが、本件支出金は公害による過失の損害に対する賠償ではないから、損金に算入することはできない。

五  原告の支出した寄附金は、原告の製油所設備拡張及び保安距離等確保のため、原部落を移転させ、本件土地を取得することがその目的であるから、直接の対価性を有し、指定寄附金には当たらない。

第六証拠関係<省略>

理由

一  本案前の主張について

原告が昭和四一年度の法人税について、その所得金額を一一九、六三三、四六五円とする確定申告をしたところ、被告は、所得金額を四五、三四〇、八二八円とする更正をしたことは、原告の主張自体から明らかである。してみると、右の更正は、原告の申告に係る納付税額を減少させる更正であるから、原告にとり利益な処分というべきである。この点について原告は、法人税の課税所得金額は、期間損益により計算するもので、前期以前の各事業年度に係る所得計算の否認の結果、当期に影響する事項は、課税庁が当然に増減計算を行い、その残額を基準として不利益かどうかを判断すべきであると主張するけれども、更正が不利益処分に当たるか否かは、当該更正により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきであつて、税額算出過程における個々の項目ごとに金額の増減を対比すべきでないことはいうまでもなく、申告後に原告主張のような事由が生じた場合には、更正の請求(法人税法第八二条)により申告額の減額を求めるべきであり、これをしない以上、申告により確定した納付すべき税額を減額する更正は不利益処分でないといわざるを得ない。また原告は、昭和四一年度の法人税更正は、所得の増額を内容とする処分と所得の減額を内容とする処分が競合していると主張するけれども、右更正は、税額算出過程において所要の加算、減算を経て行われた一個の処分であつて、原告の主張するように二個の処分が競合しているとみることはできない。したがつて、原告は、右処分の取消しを求める利益を有しないものというべきである。よつて、本件訴えのうち、右処分の取消しを求める部分は不適法である。

二  争いのない事実

原告の請求原因(第二)一の事実、被告主張の第三の三(一)の事実、同(二)の事実(ただし、昭和三九年度課税標準計算の内訳<6>製造雑費のうち一〇万円に関する部分を除く。)及び同(三)の事実のうち、原告が原部落住宅に近接して大型貯油タンクを設置したこと、県当局より保安空地設定の要請があつたこと、菊間町が原告と同部落住民の間に入り立退きを斡旋したこと、寄附金は同部落住民の立退先用地の買収、造成費に充てる目的であつたこと、原告が本件土地を被告主張の代金で取得したこと及び原告が別表(五)記載のとおり種地区の土地を取得したことは、いずれも当事者間に争いがない。

昭和三九年度課税標準計算の内訳<6>製造雑費のうち一〇万円について、原告は、はじめ、原部落住民の集団立退きに伴い支払つた立退補償金である旨の被告の主張事実を認めたが、後に右自白を撤回した。しかしながら、右自白は本件の争点に関する重要な事実に関するものであるところ、それが真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであることを認めるに足る証拠はないから、右自白の撤回は許されない。

三  原部落の集団移転と原告の本件土地取得との関連について

(問題の発端)

(一)  成立に争いのない甲第二〇号証、第二二号証、乙第一二号証から第一五号証、第一七号証の一、三、四、第二八号証の一、二、第六五号証の一から五まで、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一六号証、第二六号証、第二七号証、証人浜川広市の証言により真正に成立したと認められる乙第一八号証、被告主張の写真であることについて争いのない乙第三七号証の八及び一〇に、証人浜川広市、同浜田松市、同矢野幸一及び同若田隆義の各証言を合わせると次の事実を認めることができる。

愛媛県越智郡菊間町所在の原告菊間製油所においては、昭和三四年頃から設備の拡張が行われ、同年頃から同三六年までの間に大型貯油タンク一〇基を同町種字原部落の住宅の西隣に極めて近接して設置し(原告が原部落住宅に近接して大型貯油タンクを設置したことは当事者間に争いがない。)、操業していたため、同部落五五世帯の住民は、その悪臭に悩まされ、火災の危険にさらされていたのであるが、特に昭和三四年四月の事故をはじめとし、数回の貯油タンクの火災事故が発生したことから、部落民は強い不安をいだき、危険対策委員会を結成して原告、菊間町、愛媛県知事等にその善処方を要望するに至つた。一方菊間町長の要請により愛媛県の担当者が菊間製油所への立入調査を実施したところ、同製油所においては、消防法に基づいて昭和三三年に制定された同町の危険物取締条例(昭和三四年以降は「危険物の規制に関する政令(昭和三四年政令第三〇六号)の制定により同条例は失効した。)に定める危険物設置の許可を受けていないため、愛媛県当局は、原告に対し、消防法に定める危険物を取り扱う施設については、県知事の許可を受けること、消火設備を整備すること、屋外貯油タンクの周囲に所定の保安空地を設けるべきこと(県当局より保安空地を設けるよう要請のあつたことは当事者間に争いがない。)等を再三督促し、特に昭和三六年一二月一一日から翌三七年一二月二二日までの間四回にわたり同県総務部長から文書による厳重な督促が行われたにもかかわらず、原告はこれに応ぜず、昭和四〇年八月一二日ようやく同県知事に対し危険物設置許可申請書を提出した。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(菊間町の斡旋)

(二) 前掲乙第二六号証、第二七号証、成立に争いのない甲第一八号証、乙第一九号証から第二三号証まで、第二九号証、証人渡部士朗の証言により真正に成立したと認められる甲第一九号証に、証人浜田松市、同渡部士朗、同浜川広市、同東本数見、同東本健市、同若田隆義、同田村克城及び同林憲禎の各証言を合わせると、次の事実を認めることができる。

前認定のような状況下において、原部落住民は、当初原告に対し貯油タンクの全面撤去を強く求めていたが、これを撤去することは実際上困難であるため、昭和三六年初頃からは、原告も原部落住民側も、原部落が集団移転することにより問題を解決することを希望するようになり、そのための補償の方法、金額等について協議が重ねられたが、容易に合意に達することができなかつた。原部落住民の要望を受けた菊間町長、同町町議会は、地域住民の福祉に関する重要な問題として積極的に原部落の集団移転問題の解決のためのり出すに至つた(菊間町が原告と原部落住民の間に入り立退きを斡旋したことは当事者間に争いがない。)。昭和三八年一一月六日菊間町長の斡旋により原部落移転問題懇談会が結成され、原告と部落側の代表がこの問題について協議を重ねる一方、昭和三九年四月一三日菊間町議会建設委員会及び全体協議会において、同町長より原部落の移転問題が提案され、菊間町において農地を買収して移転用宅地を造成すること、土地買収のため同町に特別会計を設置すること、原告より土地の買収、造成費を寄附させ、寄附採納を受け入れることが提案され、この問題を検討するために町議会内に特別委員会が設けられた。その後、同特別委員会、町議会協議会、町議会臨時議会等数回の会合が開かれて協議が重ねられた結果、原部落の移転に伴う代替宅地については、菊間町が農地を買収し宅地造成をしたうえ、同町から部落民に払い下げることとし、土地買収、造成費を原告から寄附させ寄附採納願を承認すること(原告の寄附金が土地買収、造成費に充てる目的であつたことは当事者間に争いがない。)移転先は菊間町八幡前及び同町葉山高田の二地区とすること、宅地造成特別会計を設けること等が決定され、これらの事項は同年五月一八日及び七月一七日の町議会において承認され、原告は同年五月一二日から同年八月五日までの間に菊間町に対し金一七九〇万円を寄附した。

一方、建物の移転補償としては、住宅坪当たり四五、〇〇〇円、納屋坪当たり二五、〇〇〇円とし、原告が右の価格で住宅等を建てるか又は金銭で補償することが原告と原部落の代表との間で合意され、昭和四〇年七月一九日立退先居宅の建築工事が完成し、原部落の住民はその頃菊間町八幡前、同町葉山高田に移住した。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(本件土地等の買収)

(三) 前掲甲第二二号証、乙第二九号証成立に争いのない甲第一号証から第一七号証まで(第三号証は一、二)、乙第三〇号証の一から三六まで、昭和四〇年四月頃撮影に係る原告菊間製油所の航空写真であることについて争いのない甲第二一号証、赤色で記載した部分については弁論の全趣旨により真正に成立したと認められ、その余の部分については成立に争いのない乙第三一号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二五号証、第四八号証から第五一号証まで、第五四号証から第五六号証まで及び第六七号証に、証人浜川広市、同東本健市、同田村克城、同北村琢磨及び同林憲禎の各証言を合わせると、次の事実を認めることができる。

原告社員林慶久は、昭和三八年一一月原告社長より原部落及びその周辺一帯の平地は全て買収するよう指示を受け、積極的にこれに取り組み、その結果原告は、本件土地については昭和三八年一一月九日から昭和四〇年一二月二五日までの間土地所有者たる部落民との間で個別的に土地売買契約を締結し、合計四六四四坪を代金八、九四八、五六九円で取得し(本件土地を原告が右の代金で取得したことは当事者間に争いがない。)、また、部落民の共有等のため土地所有権を取得できなかつた土地については、昭和四二年一二月二五日堅固な建物、タンク及び機械装置の所有のため期間三〇年の地上権を取得し、結局、原部落全体の土地について所有権ないしは地上権を取得するに至つた。さらに原告は、菊間製油所の設備拡張のための用地として、原部落東側の菊間町種甲、同町種字塩面甲等種地区一帯の土地の買収にも積極的に取り組み、昭和四二年三月三一日までに合計二〇、九九五坪の土地を取得した(右土地を取得したことは当事者間に争いがない。)のであるが、うち、原部落に隣接する東側の土地は、大型貯油タンク用地とするため、昭和三八年一一月から翌三九年三月までの間に買収が完了していた。

以上の事実を認めることができ、証人田村克城及び同林憲禎の証言中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(原告の事業規模の拡大)

(四) 前掲乙第二九号証、成立に争いのない乙第二四号証、第三四号証の一から四まで、第三五号証、第三六号証、第三七号証の一から六まで、第三八号証の一、二、第三九号証から第四一号証まで、第四三号証の一、二、被告主張の写真であることについて争いのない乙第三七号証の八から一二までに、証人田村克城、同林憲禎の各証言並びに本件口頭弁論の全趣旨を合わせると、次の事実を認めることができる。

原告の石油精製能力は、昭和二七年に日産一、〇〇〇バーレルであつたが、昭和三七年二月には日産七三、五〇〇バーレルに飛躍的に増加し、これに伴い売上高も、昭和三五年三八億円であつたのが、昭和三八年には一一二億円に伸び、さらに昭和四〇年には一五七億円に増加した。また原油に対する外貨資金割当額も著しい伸びを示しており、その実績は、昭和三二年を一〇〇とすると昭和三六年には一三四九となつている。このような石油精製能力及び売上高の増加に伴い、原告は原油輸送問題の解決のため、昭和三八年一一月に飯野海運株式会社との間に大型高速タンカー豊邦丸(四六、一五八トン)、真邦丸(四九、二四八トン)の長期用船契約を結び、さらに昭和三九年八月には大型タンカー陽邦丸(八五、七〇〇トン)の長期用船契約を結び、昭和三九年七月には能力一〇万トンのシーバースを発注し、昭和四〇年二月菊間製油所沖に完成し、原油輸送手段の確保をはかつた。原油輸送手段の拡充にともない、大型貯油タンクの増設の必要に迫られ、原部落の東側隣接地に五万キロリツトル貯油タンク二基の建設を進めた。すなわち、昭和三九年八月二〇日同貯油タンク二基の見積書を取り、同年九月一五日石井鉄工所との間に貯油タンク二基の工事請負契約を締結、昭和四〇年五月一基目(A第一三号)の、同年八月二基目(A第一四号)の貯油タンクの基礎工事が完了し、同年九月及び一二月にあい次いで右貯油タンクの設置が完了した。その後昭和四一年三月にA第一五号、同四二年八月にA第一六号の貯油タンクを設置する等急速に菊間製油所の設備拡張が行われ、昭和四一年から翌四二年にかけ、原告が買収した本件土地及びその東側の種地区一帯の土地は、製油所としてその様相が一変した。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(五) 以上のような経緯により、原部落の集団移転及び原告による本件土地等の取得が行われたのであるが、被告は、原部落の移転問題の解決は、地上権の設定をも含め製油所拡張用地及び保安距離設定用地の確保のための土地の取得を目的としたものと主張し、これに対し、原告は、原部落の移転と本件土地の取得とは何らの関係がないと主張する。そしてこの点は、本件支出金が本件土地の取得価格を構成するかどうかについて重要な関係を有するので、次に検討することとする。

1  原告は、前認定のとおり菊間製油所屋外貯油タンクの周囲に所定の保安空地を設けるべきことを県当局から要請されていたのであるが、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三三号証の一から三までによれば、昭和三八年七月頃原告の青木専務は、消防庁予防課に出頭し、菊間製油所の空地確保のため用地買収等につき鋭意努力中である旨説明し、了解を求めている事実が認められるから、原告は保安空地のため土地取得に努力していたことがうかがわれる。

2  前認定のとおり、原告の事業規模の拡大に伴い菊間製油所の設備拡張のため用地確保の必要があつたのであるが、さらに、前掲甲第二一号証、第二二号証、乙第三一号証、第三七号証の八、第三七号証の一〇から一二までによれば、菊間製油所は、西側が海に面しているため、東側に隣接する原部落及び原部落のさらに東側の種地区に進出しなければ、製油所の設備を拡張することができない地理的状況にあつたことが認められるから、菊間製油所の拡張にとつて原部落所在地は絶好の土地というべきであり、これなしには、同製油所を拡張することは著しく困難であつたと考えられる。

3  前認定のとおり原告は、原部落の移転問題が決着のつく前である昭和三八年一一月頃から原部落の東側に隣接する田畑山村地域一帯の買収を積極的に進め、A第一三号及びA第一四号の各五万トンの貯油タンク用地は、すでに昭和三九年三月までに売買契約が締結されていたのであるが、前掲甲第二二号証及び乙第三一号証によれば、A第一四号の貯油タンク用地の一部は、原部落の地域内にかかつているから、A第一四号タンクの建設のためには、ぜひとも本件土地の一部を取得しなければならなかつたことがうかがわれ、かつ、原部落の東側一帯に製油所を拡張するには、その前提として本件土地を取得しなければならなかつたことが認められる。

4  部落の集団移転という解決方法を選択した以上、その跡地の処置は当然重要な問題となる筋合いのものであるから、原告の主張するように、原部落の集団移転と本件土地の取得とが無関係に行われたということは、部落民は本件土地の処置が決まらないまま集団移転に応じたということになり、紛争の解決としては極めて不自然というべきである。

5  以上認定した菊間製油所の設備の拡張及び保安空地のための土地確保の必要性と本件土地及び周辺の土地買収の時期その態様、買収後の土地の使用状況等を考えれば、原部落の移転と原告の本件土地の買収は、表裏一体の関係にあつたというべきであり、前掲乙第二六号証、第四九号証、第五〇号証、第五四号証から第五六号証までにより認めうる、原告はかねて本件土地の入手を希望しており、土地の売主である部落民は、原部落の集団移転に際しては、原告が本件土地を買い上げるという条件であつたと述べていることは、この間の状況を裏付けるに十分である。

6  そうだとするならば、原告は、貯油タンクの撤去要求に端を発した住民側の要求を部落の集団移転という方法で満足させると共に、同時に、保安空地の確保及び菊間製油所の設備拡張等のための土地の取得を図つたものであつて、原部落の集団移転と本件土地の処理は一体的に解決されたものと認めるのが相当である。証人田村克城、同北村琢磨、同林憲禎の証言中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

7  もつとも、この点について原告は、保安空地の確保のためならば、原告が土地所有権の取得、地上権の設定をすることは不要であり、原部落全体を移転させることも不必要であつて、原告が本件土地を製油所敷地として利用したことは、事後の土地利用にすぎないと主張する。しかしながら、原告が保安空地のためだけでなく、製油所の設備拡張のため本件土地を取得したこと及び原告が本件土地を製油所敷地として利用したことが土地取得後の単なる土地利用ではないことも先に認定したとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

四  本件支出金が本件土地の取得価額に含まれるかどうかについて

(一)  そこで本件支出金(別表(四)の昭和四一年度課税標準計算の内訳のうち<15>営業雑費を除く。以下同じ。)が本件土地の取得価額に含まれるかどうかについて検討する。

施行令第五四条第一項は固定資産のうち減価償却資産の取得価額についてその取得の形態に応じて取得価額の範囲を定めており、土地等の非償却資産の取得価額については明文の規定を置いていないけれども、(旧規則第二一条の七第一項は、固定資産の取得価額の範囲について施行令第五四条第一項と同趣旨の規定を定めている。)公正妥当な会計慣行をしんしやくすれば非償却資産の取得価額についても、償却資産の取得価額に関する右の規定を類推適用するのが相当である。

本件土地は、購入により取得されているから、昭和三九年度については旧規則第二一条の七第一項の規定を適用し、昭和四〇年度については施行令第五四条第一項第一号の規定を類推適用すべきところ、その取得価額の範囲は、当該資産の購入代価、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税、その他当該資産の購入のために要した費用がある場合にはその費用の額を加算した金額とこれをその用途に供するために直接要した費用の額の合計額というべきである。

ところで、本件支出金のうち、別表(二)の昭和三九年度課税標準計算の内訳(加算)のうち<4>寄附金は、原部落の立退先用地の買収、造成費として寄附されたものであること、同<5>営業雑費、<6>製造雑費、別表(三)の昭和四〇年度課税標準計算の内訳(加算)のうち<6>営業雑費は、いずれも、原部落住民の集団立退きに伴い支払つた立退補償金であること及び原部落の移転と本件土地の取得は表裏一体として行われたものであることは前記のとおりである。そうすると、原部落の移転による公害問題の解決は、本件土地を取得する際の原告の主観的意図の一つにすぎず、かつ、右の支出はいずれも本件土地を取得するためには不可欠な支出と解されるから、右支出金は、まさに「本件土地購入のために要した費用」として本件土地の取得価額を構成すると解するのが相当である。

(二)  原告は、もし本件支出金が本件土地の取得価額に算入されるとするならば、本件土地の坪当たりの単価が非常識な高額なものとなるから、この点からも被告の主張は失当であると主張する。なるほど、本件支出金を本件土地の取得価額に算入すると本件土地の坪当たりの単価は二〇、〇〇〇円以上となるから、前認定の本件土地の原告の購入価額坪当り二、〇〇〇円に比較するとかなり高額であるというべきであろう。しかしながら、証人浜田松市、同渡部士朗及び同浜川広市の証言によれば、当時同町においては、農地の価額が一坪二、〇〇〇円位であつたことが認められるから、本件土地のように部落民が長年の間居住の用に供した地域の土地の価額がこれと同額であるとは考えられず、前記認定の事実関係からすれば、本件土地の購入価額は、むしろ、原告が原部落移転に伴う立退先用地の買収、造成費用及び立退補償金を支出することにより、いわば跡地利用権を取得した後の土地価額に相当するものであるから、それが通常の価額より低額に定められることは当然である。また、買主にとつて土地の取得の必要性が大きれば大きいほど、通常の取引価額を無視した売買が行われ、その取得価額が高額となることは一般にみられるところであるから、前認定の原告の本件土地取得の必要性と部落民を原告の一方的な都合により立ち退かせる経緯からみれば、その取得価額が高額となることはなんら異とするに足りないものというべきである。したがつて、その取得価額が高額となるからといつて、本件支出金を本件土地の取得価額に算入できないものではないから、原告の右主張は理由がない。

(三)  原告は、本件支出金は、公害防止事業費事業者負担法にいう事業者負担金と同視すべきものであるから、租税特別措置法第二条の二第一項により、支出時の一時の損金に算入されるべきであると主張する。しかしながら、本件支出金が事業者負担金に該当するかどうかはともかく、事業者負担金の特別償却に関する同法第五二条の二第一項の規定は、租税特別措置法の一部を改正する法律(昭和四六年法律第二二号)附則第一条・第一二条第四項の規定により昭和四六年四月一日以後に納付する租税特別措置法第五二条の二第一項の事業者負担金について適用されるのであるから、本件支出金について同条が適用されないことは明らかである。また、原告は、本件支出金は、公害問題の解決のために支出した費用で純資産の減少となる支出であるから、支出時の損金に算入されるべきであると主張するけれども、本件支出金が本件土地取得のために支出されたと認めうること前認定のとおりであるから、原告の右主張も理由がない。

(四)  原告は、原告が昭和三九年度に支出した寄附金は、法人税法第三七条第三項第一号の規定により損金に算入されるべきものであると主張する。しかしながら、右寄附金が原部落住民の立退先用地の買収、造成費に充てる目的であつたことは原告も自認するところであり、前認定の事実に照らせば、その実質は、原告が菊間町から寄附金相当額で右用地の払下げを受け、これを立退先用地として原部落住民に無償で譲渡したと同様であつて、右寄附金はまさに本件土地の取得と直接の対価性を有するものというべきである。したがつて、右寄附金が旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)第九条第三項、旧規則第八条の規定による指定寄附金に当たらないことは明らかである。

(五)  したがつて、本件支出金の損金算入を否認した本件課税処分になんら違法の点はないといわなければならない。

五  よつて、原告の本件訴えのうち、昭和四一年度の法人税更正のうち所得金額四一、〇八三、六九〇円をこえる部分の取消しを求める部分は、不適法であるからこれを却下し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 時岡泰 青桝馨)

別紙<省略>

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